あの日
1年の中でフランス人たちがもっとも楽しみにしているクリスマス。街のショーウインドウはもちろん、行き交う人々もウキウキソワソワしている時期に、それは突然やってきました。
入院中で、しかも体調がすぐれない日が続いていたとはいえ、こんなに突然やってくるとは思いもしませんでした。丁度その一週間くらい前に息子が熱を出してしまったため、夫に移してはいけないし、命よりも大事な息子に熱が出たなんて知ったら夫も心配すると思ってお見舞いには行きませんでした。
あの時毎日でも行っていたら、夫の体調の変化に気づけたのかな、とか、少しでも多く話ができたのに、と今でも悶々としています。
最終的には私の判断で苦しむ夫を深い眠りにつかせ、心臓が止まるのを待つことになったのです。もちろん夫の家族全員がその場にいましたが、最終判断は妻である私がしなければならない、と医師から言われました。苦しむ夫を見るのは耐えられないし、何よりも
「ごめん・・・でももうたくさんだ。」
と言われたのが決定的でした。意識が朦朧としながらも苦しみに耐えながら生かされている夫に、
「もう少しで楽になれるからね。落ち着いてゆっくり寝るんだよ。」
と言いました。夫の両親は混乱していて意見を聞けるような状態ではありませんでしたし、夫の兄弟は私と同じ意見でこれ以上治る見込みがないのに苦しませるのは見ていられない、と。
雲一つない青空だったこの日、私は夫を二度と起きないように眠らせる薬を医師にお願いしました。