怒りを通り越した感情

以前のブログにちらっと書きましたが、夫は1Kのアパートも残してくれました。相続の手続きはまだ終わっていないものの、公証人の話によると「貸しても問題ない」とのことでした。

このアパートは、現在のアパートに越してくる前に、夫と二人で5年弱住んでいました。その5年ほど前に夫が購入していたのです。

そして、現在のアパートに越してから1Kの方を貸すことに決めたのが3年前の話。私は旅行者向けに短期で貸し出すのはどう?と提案しましたが、

「誰が掃除や管理をするの?」

と夫に言われ、やはり長期(家具付き)で貸し出すことに決めました。当時、私は妊娠中だったため、子供が生まれてから赤ちゃん付きで掃除やカギの受け渡しをするのは不可能という判断です。

不動産屋を通した方が面倒がなくていいと思いましたが、夫は不動産屋にマージンを取られるのが嫌で、個人で契約をすることに。一番上の兄の知り合いのレストランで働いている若いフランス人男性(Aとします)に貸すことにしたのです。

夫いわく、第一印象は小柄で大人しめで何だかハッキリしない性格のよう、とのこと。蓋を開けてみれば、Aはゲイで(別にゲイを否定しているわけではないです)もう一人体格のいい男性(Bとします)と同居するとのことでした。

初めは滞納せずに払っていたものの、いつの間にやら夫の兄の知り合いのレストランを辞めて無職になってしまったA。Bは別なところで働き続けていましたが、Aのヒモ状態(?)に疲れたのかBは出て行ってしまったらしく、家賃の支払いができない、と逆ギレの電話。

実はその前にも1Kのご近所さんから苦情の電話が相次いでいました。どうやら友達を呼んで騒いだり、ものを壊したり、騒音がすごくて迷惑だ、との内容。しかもアパートの管理会社にも苦情を出されて夫はとても苦労していました(すでにガンが発覚していた時)。

何度も催促の電話を入れたり、夫の兄や弟がアパートに行って話したり、としましたが・・・結局4ヶ月(記憶が曖昧ですが)ほど未払いのまま、突然夜逃げされたのです!


ちなみにフランスの法律では、家賃を滞納しても追い出せないのです(特に冬場)。家具付きだと追い出せる、という話もありますが、現実はそうはいきません。そのため、貸す人はとても慎重なのです。


夫は悔しさと怒りで震えていました。アパートを見てみると、壁はそこらじゅう傷つけられ、備え付けのカーテンレールも壊され、扉のガラスや窓ガラスも割れ、玄関の扉も一部破損。冷蔵庫は開けるのも恐ろしいほどの汚れ。ベッドも想像したくない感じで汚されて、壊れていないものを探す方が困難なほど。

とりあえず、向こうが運びきれなかったテレビなどを差し押さえる形で、鍵も換えて入られないようにしたのですが、まったく音沙汰なし。そのまま夫の病状も悪くなっていったので、アパートは手付かずの状態でした。

大切に使っていたアパートを、これでもかというほど汚された夫の気持ち。自分が思うように動けず、何もできなかったことへの苛立ち。病気には直接関係ないにしろ、これがかなりのストレスになっていたことは間違いありません。

そしてそんな思いをのこしたまま夫は旅立ち、その次の夏(つまり去年の夏)に夫の弟が少しずつメンテナンスをしてくれました。ペンキ塗り(ペンキだけではなく、壁の凹みを直したり)や壊れたガラスを業者に頼んで入れて換えてくれたり、新しいカーテンレールを購入してくれていました。

私は自分の生活にいっぱいいっぱいでそれどころではなく、息子を連れて数回見に行くくらいしかできませんでした。

そして今年の夏。息子は夏休みですが、解雇されてしまったので時間があります。そのため、夫の家族に息子を見てもらい、自分でできることを始めました。

夫の弟からは、

「あとは床を掃除するくらいしか、やることはないよ」

と言われましたが、私(と夫)と、弟の基準がかなり違うのか、まだまだやること盛り沢山・・・。

電気調理器(?)のオーブンの中は油と焦げが山のようになっており、両脇も吹きこぼれか何かの跡がダラダラ。これを掃除するだけで半日かかりました。磨きながら、住んでいたAとBへの怒りを通り越して、夫のことを思いながら割と穏やかな気持ちで掃除ができました。

「自分たちが住んでいた頃の状態に少しでも近づけたい。」

そんな思いでした。浴槽も汚れ、洗面台は詰りがひどくて水が流れません。。。換気扇の上や吊り戸棚の上は油汚れで真っ黒。キッチンの壁も、

「どうしてこんなところに、こんな汚れが!?」

と思うようなところが汚くて(これも綺麗なところを探す方が困難)、

「AもBも、人から借りたアパートをこんな風に使って・・・いつか自分に返ってくる時が来るだろう。その時、少しでも夫のことを思うかな。それでも理解できなければ、所詮その程度の人間。かわいそうだな。」

と思いながら、スポンジの緑の部分で壁全面を磨きました。

おかげで、普段は汗なんてかかないのに汗が流れてきて気持ちよかったです。

現時点で約1.5日分くらい掃除していますが、明日もまた半日やってきます。夫の家族からは

「何もそこまでやらなくても・・・」

と言われますが、私は以前住んでいたくらいの状態に戻したいのです。それが、私だけが夫にできることかな、と。それと、やはりこの状態で貸し出したとしても

「この状態でこの値段では高すぎる!」

と言われるに決まっています。

少し時間はかかっても、自分が納得いくくらいの状態に仕上げたいです。そうしたら、見えない夫も笑ってくれるかな。。。

 

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