あの日 その2
*話が前後しますが、眠らせる薬を入れる前の話です。
●●(夫)の前で泣いてはいけない。
そう夫の母親から言われましたが、私には無理でした。何も分からず苦しい夫は、家族全員が集まっていることと、自分の体調でその時が来るのを分かっていたはずです。それでも夫の家族(私以外)は、それを認めませんでした。
眠らせる薬を入れる前まで、
大丈夫、大丈夫。良くなるから。絶対に諦めちゃだめ。
そんなこと、私には言えませんでした。ここまで頑張ってくれただけでも十分だから。息子のことは私が命をかけて育てるから。と、みんながいなくなって意識朦朧としている夫の耳元で涙ながらに言いました。
実は、眠らせる薬を入れてもらうまで、恥ずかしいことに私は泣いてばかりでした。でも、ふと思ったのです。私はどうして泣いているのか、と。実母に電話をかけた際、
あなたが泣いてばかりだと、●●があなたを心配して安心して逝けない。もっと気丈に振る舞いなさい。安心させてあげなさい。それがあなたが彼にできる最後のことだから。
と言われてハッとしたのです。
それまで私は、最愛の夫が私と息子を置いていってしまう、その事実が寂しくて悲しくて泣いていたのです。これからどうしたらいいのか、息子を一人で育てられるのか、そういう不安や寂しさ、悲しみが入り交じった気持ちでいて、苦しんでいる夫のことは二の次だったことに気づきました。
もちろん、前にも書いた通り薬を入れてもらうことは覚悟のいる決断でしたが(私が夫を殺してしまう、という想い)、夫の意識が無くなって苦しむ様子がなくなってからは、穏やかな気持ちで傍にいることができました。